「やはり、君たちは嘘をついていたんだな」


抱き合う俺たちの背後から聞こえた声に、ふたり顔を上げてそちらを見た。

そこには、相変わらずのニヤニヤした顔がある。
その隣にいるのは、神経質そうで無表情の、眼鏡をかけた背の高い秘書。

「君が花木の娘と婚約したなどと嘘をついて、俺を陥れたのはわかってるぞ」

久しぶりに見た黒田社長は、あのときと同じようにバカにしたような目つきで俺を見る。

芹香の身体をそっと離し、彼を正面から見据えた。

「それで?この茶番劇の最後はどうなるんだ。シナリオ通りにいくなら、今年中には結婚しなければならないが。……その子じゃない、花木の娘とな」

俺はなにも言えないまま、彼を睨んだ。
探るような視線を向ける黒田社長は、どこか楽しげな表情だ。