平和だった。

 舞はさっきの窓から廊下の窓を見る。

 今はそこにない雨を見た。

 雨はきらい。

 もう長い間まともに聞いていない気さえする母親の声が、今も、この魂を引き裂くから。

 舞は祈った。

 雨が降ればいい。

 降りだしたその雨に、この世界が溶けてしまえばいい。

 だが、降ったところで、雨はやはり唯の雨で、コンクリートどころか、窓際に揺れる木の葉の一片さえ溶かしはしないだろう―

 かしましく騒ぐ友人たちの声を聞きながら、頬杖をついた舞は、ぼんやりと窓の外を見つめ続けた。