「パパもいる?」

 いや、いい、と言いながら、数鷹は舞の側に来ると、冷蔵庫から母親の作っておいた健康茶を取り出した。

「今日はもう終わり?」

 舞の自宅は、父親のやっている坂口クリニックと繋がっている。

「いや、まだまだだよ。ちょっと休憩。

 舞、今日は早いな」

「うん、今日からテスト週間だからね。
 部活はお休みなの」

 ほんとは一昨日からなんだけどね、と心の中で付け加える。

 数鷹はそういうことには疎いし、母親は舞の学校生活などには興味がないようだから、気づきはしないだろう。

 一人娘としては、ちょっと寂しいところだが。

「ママはどうした?」

 舞は飲み終えたグラスを流しに置きながら言った。

「今日は、フラメンコ」

 ああ、そうか、と数鷹は苦笑する。

「毎日、元気なもんだ」

 どっこいしょ、と立ち上がると、
「やれやれ、もう一仕事してくるか」
と独り言ともつかないことを言う。