「良いけど、」

 "お社さま"と蓮が呼ぶのは、この辺りにある小さな社のことで、小さい頃からこの土地に住んでいる二人も、何を祀った社なのか、よく知らない。

 境内の片隅にある、苔の蒸した大きな岩に、水を三度掛けながら願い事を唱えると、その願いが叶うと言われていた。

 誰からともなく、願掛け石、と呼ばれている。

「最近、よくみんな来るみたい。四組の橋本さんが恋愛成就を願いに来たとか、鈴木さんが無くし物の捜索を頼んだとか」

「一組の田中が赤点脱出を願った、って言うのは聞いた」

「本当?」

 "お社さま"に向かいながら、そんな話をして互いに笑みを零す。

 何も、みんなが信じてそれらの事を行うわけではない。

 根拠のない迷信だとわかってはいる。

 ただ切羽詰った時や、本当に困り果てた時に、戯れ半分でくるのだ。

 文字通り、困ったときの神頼み、というやつだ。