――ガタッ。

小高い丘の住宅地。
長尾美紀が東側の勝手口を開ける。
そこは小さな花壇と畑につながっていた。


左てに見える玄関の脇にある生け垣には、季節ごと咲く白い花の木が植えてあった。

東北にある玄関……
所謂鬼門だったのだ。

かなり花びらの散ってしまった雪柳。
そして今は白山吹が可憐な姿を見せていた。


南側窓の下には小さな畑。その向こうには鬱蒼とした雑木林。
それは、崖へとつながっていた。


「あれっ、凄い……」
一瞬固まった美紀。
フェンスの先のある物に目が奪われたのだ。


「ママのごほうびかな?」
美紀はそう言いながらそれを見つめた。

美紀の視線の先にあった物……
それは白い蒲公英だった。


美紀は一瞬我を忘れた。
その時顔を出したばかりの朝日が美紀を照らした。

美紀は慌てて、時計代わりの携帯をエプロンのポケットから取り出し確認した。


美紀は五年前に亡くなった母の珠希(たまき)が愛用していた携帯を正樹から譲り受けた。
会話とメールだけ出来れば良かったからだ。


兄弟はスマホを欲しがっていたが、経済上の問題で未だに叶えてもらえないままだった。


何故その携帯が時計代わりなのかと言うと、この前の生徒会で携帯とスマホの学校持ち込みが禁止となった。
美紀の兄が生徒会長をしている手前、従うしかないと思っていたのだ。


(良かった、まだ大丈夫だ)

大きな伸びをした後、眩しそうに目をそらす。

本当はずっと見ていたかったのに……




 (あらっ、何時の間に!?)

ふと……
白い矢車草に目がいく。


「今年も咲いてくれたね」

美紀は懐かしそうに、その花を見つめた。


矢車草には美紀の育ての母・珠希(たまき)との思い出があった。

初めて貰ったお小遣いで、美紀は花の種を買った。

兄弟がスナックを買うのを横目で見ながら……


(いいなぁ)
確かにそう思う。


(でもこれなら、ずーっと楽しめる!)

店頭に沢山並んでいた花の種を見ながら、美紀の目は遠い未来を見つめていた。
そう……
目の前にある種が花開く数カ月先を。




 だけど美紀は迷った。
余りに種類が豊富だからだ。


その中から見つけた物。
それが矢車草だった。
前面に描かれた、花火のような絵にひかれたのだ。

珠希がは花火を好きだったことを思い出したのだ。
この家を選んだのだって、此処から見える……
からだった。

遠花火だったけど。