な…泣くな、フィオネ。



堪えるんだ。




ここで泣いたりしたら、優しいゼロは旅が終わった後でも、私の側にいてくれちゃうかもしれない。




そんな迷惑はかけられない。







「フィオネ?さっきからなんか変だぞ?」





ゼロが私の顔を覗き込む。






私は、ぱっ、とゼロから離れた。





「あ…えと。大丈夫だから!ココアが美味しくて……。」





バレバレの嘘は、ゼロには何も言われなかった。




ゼロは、すっ、と席に座ると黙ってコーヒーを飲んだ。





「コーヒーも美味しいぞ。ココアも好きだけど。」





ゼロは、にっ、と笑った。




本当は、ゼロは私が何で悩んでいるのか分かっているのかもしれない。




それをすべて分かった上で、私のことを考えてくれてるの?







……ゼロの優しさに甘えるのは、後一週間で終わりだ。







私は、ココアをぐいっ、と飲んだ。



甘い香りが私を包んだ。




それは、別れを告げられたあの日の香りとどこか似ていた。