「女なら誰でも自分のこと好きになるって思ってんのよあの人は!……そりゃあね、私だってかっこいいなぁ~とか、助手席に乗ってみたいなぁ~とか、腕枕されてみたいなぁ~とか。そういうことは思ってましたよ、確かにね!バーチャル熊谷課長なんて作って1人で勝手に理想の課長像を思い描いてましたよ。でもさ、妄想と現実って違うのよ!あの人って表面上はあんなに爽やかなイケメンなのに中身はとんでもない遊び人よ!あー危ない危ない、ほんと騙される寸前だったんだわ、私。てゆーかさ、そんなに私って安い女に見える!?見えるのかなぁ!?だとしたらイメチェンしないとヤバいよね……。どこをどう変えたらいいの!?髪型?メイク?服装?顔面だけは変えられないし体型だって今すぐは変えられないし……。困ったわ~……。………………ちょっと、須和。聞いてる!?」
駅裏の居酒屋「酔いどれ都」のカウンター席の一角にて。
私の止まらないマシンガントークをひたらすら浴びている須和は、ところどころ「うん」という相槌を打ちつつ日本酒を飲んでいた。
聞いてる?という問いかけに対しては、ちょっと面倒くさそうに「まぁ、それなりに」なんて答えたりして。
それなりにってなんだよ、おい!
話聞くって言ったのそっちでしょうが!
不満たっぷりの私の顔をチラッと見たカメ男が、天ぷらの盛り合わせの中から舞茸の天ぷらを箸でつまみながらボソッとつぶやく。
「バーチャル熊谷課長って何?」
「………………そこ突っ込むの?」
「一応そこだけは気になったから」
そこだけってどういうことよ、だけ、って。
「大野梢、もうすぐ27歳。趣味はイケメンとの妄想。ほら、これで満足かね?須和殿」
「いいんじゃない、楽しいならそれで」
カメ男はあしらうような返事をして、箸でつまんでいた舞茸の天ぷらをパクッとひと口で食べた。
サクサクと咀嚼する音が私の耳まで聞こえてくる。
ヤツはよっぽど「酔いどれ都」の料理が気に入ったのか、さっきからものすごく食べている。
日本酒もまぁまぁ飲んでいるけれど、とにかくよく食べる。
見ていて気持ちがいいくらい。



