ウサギとカメの物語



ちょっと距離はあるものの、私のいる場所からでもカメ男の目はよく見えた。
メガネ越しに、こちらを見ている。


そして、一言。
「違ってたらゴメン」とつぶやく。


「あったよ」


給湯室での出来事を思い出して、煮えたぎる怒りの炎に包まれながら震える声で続けた。


「めちゃくちゃあったよ、色んなこと」

「………………そう」


訝しげな顔をしていたカメ男は、少し間を置いてから


「話、聞こうか?」


と目を細めた。


熊谷課長とのことを知っているのはヤツだけ。
奈々にも話していない。
そうなると、話を聞いてもらうとしたらヤツしかいないのだ。


私はウン、とうなずく。


「仕事終わったら、酔いどれ都に集合」

「分かった」


カメ男は特に表情は無いまま承諾し、踵を返して給湯室へ入っていった。