「何か気に障ることでもしたかな?」
「い、いえ……。そういう訳ではないんですけど……」
課長の顔は遠のくどころかどんどん近づいてきて、そのたびに私はあっちへこっちへと自分の顔を移動させた。
意地でもキスするもんか、って思いながら。
私の両手は課長の両手に拘束されて、まったく動く気配もない。
なんていうシチュエーションなのー!
これってドラマでよく見るやつ!
オフィスラブでよくある展開!
給湯室でこっそりナントカってやつ!
……と、ミーハーなことを考えていられたのはこの時までだった。
長身の課長は私を見下ろす形で尋ねてきた。
「まさかとは思うけどさ、付き合ってもいないのにホテルに誘われたのがショックだったのか?」
「………………は……、えっと……」
曖昧に答えをごまかしていると、課長は困惑する私の顔を見てクククと肩を震わせて笑った。
なんでこんな状況で笑うんだ?
唖然としながら彼を見上げる。
「もっとホイホイついてくるタイプだと思ってたのに」
絶世のハンサムから言われた言葉は、もはや私にとっては死刑宣告みたいなもので。
もう、目をパッチリ見開いたまま課長をガン見するしかなかった。
彼は私の反応がいちいち面白いらしく、また肩を震わせて笑った。
「もったいないな、ほんとに。あんなチャンス二度と無いぞ。俺とホテル行けるなんてさ」
「…………な、何言って……」
パクパク口を開いても、私の中から言葉が出てこない。
言い返したいのに、なんにも出てこないのだ。
こんな時になんで!?
いっつもおしゃべりな私のくせに!
ビビリな自分を呪ってしまう。



