ウサギとカメの物語



時刻も夕方になった頃。
自分の仕事がひと段落したので、私は小休憩でも取りに行こうと席を立った。


事務所を出ていく際に、どこかと電話しているカメ男と目が合った。
ヤツは無表情で視線を手元に落とすと、電話の相手の用件をメモしているらしかった。


そのまま私は事務所を出た。


廊下を歩きながら、この間の夜のことを思い返す。
熊谷課長とホテルに行く流れになってしまい、偶然とはいえカメ男がそこに遭遇してどうにか切り抜けることが出来た。
あの時自分の思っていたことをヤツに全部ぶちまけて、驚くほどにスッキリしたんだ。


カメ男はこれといったアドバイスをくれるわけでもなかったけれど、静かに私の話を聞いてくれた。
そしてヤツと過ごした時間が、妙に居心地よく感じちゃった私。
ウマが合うのかな~、意外に。
信じられないわ、なんだか。


そしてヤツは余計なことを言ってこない。
あの時から1週間以上経ってるけど、突っ込んだことを聞いてくるわけでもないし。
それが私にはちょっと有難かったりして。


目的地の給湯室に着いた私は、いつものように職員用のコーヒーを取り出して粉をカップに入れる。
ポットからお湯を注いで、スプーンでかき混ぜた。
コーヒーの苦い独特の香りが給湯室に広がる。


はぁ、癒される。
いい匂いだな~、落ち着く。


シンク台に腰を預けて、ひとときの安らぎの時間を過ごす。
コーヒーを飲みながら、ひたすらボーッとする。


今日は帰ったら夕食はなんにしようかな。
有り合わせで炒飯でも作るか。
日曜日に思い切ってビールを箱買いしちゃったから、しばらくはビールに困らないし。
早く帰ってビール飲みたーい!


ほとんど頭の中がアルコールに染まった時、給湯室に誰かが入ってきた。