ランチを終えて事務所に戻ってきた私は、ルンルン気分でデスクにいる奈々の顔をボーッと眺める。
思わぬ田嶋とのランチに浮かれているな、奈々め。
本当なら奈々も一緒に美穂ちゃんの話を聞くはずだったんだぞ。
彼女のお願いも2人で聞くはずだったんだぞ、たぶん。
ズーンと沈んだ気持ちで奈々を見ていたら、斜め向かいの席の神田くんが視界に入ってきた。
「大野さん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うっ……、うん」
思わず挙動不審になりながら、変な作り笑いをしてうなずく。
神田くんは右手にどこかの企業の資料と、左手にメモを持って私のデスクまでやって来た。
そして身をかがめながら資料を広げて見せてくる。
「鮫島建業の機材の納期が1週間くらい前倒しになるらしいんですけど……」
なにやらゴニョゴニョ説明している神田くんの言葉は、私の耳を右から左へ通過していった。
いくら待っても返答が無いからか、彼は不思議そうな表情をしてこちらを覗き込んでくる。
「大野さん?聞いてます?」
「え?なんだっけ?」
「えええーーー!聞いててくださいよ~!」
頬を膨らませる神田くんを見て、やっぱり可愛い顔してるよね、なんて呑気なことを思ってしまった。
「ゴメンね~」って謝りつつ、お昼休みに美穂ちゃんに頼まれたお願いごとを頭の中で思い出す。
うぅ……。どうしよう。
彼女が言ったお願い。
それは、神田くんに美穂ちゃんのことは諦めろと念を押してほしい、ということだった。
嫌がっているから。迷惑がっているから。
だから彼女のことはキッパリ諦めて、アプローチするのは止めてほしいと。
そう伝えてもらえないかというお願いだったのだ。



