ウサギとカメの物語



やがて運ばれてきたベーグルサンドを、私は豪快に口の中へ突っ込む。
対照的に美穂ちゃんはもぐもぐとお上品に口へ運んでいた。
女子力の差は歴然だな、と思いつつも止められない。


ちょこちょこベーグルを口へ運びながら、美穂ちゃんは話を続けた。


「他に付き合ってる人がいるみたいなんです。でも、私……諦めきれなくて。それでこの間、つい言っちゃったんです」

「ほぉ。なんて?」

「2番目でもいいから抱いてください!って」

「ブッ!!…………ゲホッ、ゲホッ」


アボカドかなんかがヒュッと喉に入ってきて、苦しくなって咳き込んだ。
それくらい私は動揺した。


美穂ちゃんみたいな可愛い子から「抱いてください」なんて言葉が飛び出すと思ってなかったからビックリした。
真っ昼間から何言ってんだ、この子。


ゲホゲホ咳き込んでいる私をよそに、美穂ちゃんはフーッとため息をついてどこか遠い目をしていた。


「それで、この間……オッケーもらえて。私、すっごく幸せで……」

「えええ!!オッケーもらっちゃったの!?ヤっちゃったの!?」

「え?はい。だって私が頼んだんですから」


キョトンとして、当たり前じゃないですかって言いたげな目で私を見ている美穂ちゃん。
その目は純粋で無垢で、とにかくその人のことが好きで仕方ないんだなーって感じの目だった。


まぁ、でも。
他人の恋愛につべこべ言うのもなんだし。
ここは先輩としてそれとなく注意だけしておけばいいかなぁ。
うーん、どうしよう。


色々と考えていたら、美穂ちゃんは「それでですね」とコホンとひとつ咳払いをした。


「ここからがちょっと1番大事な本題なんですけど……」


ここから!?
ここからが本題!?
今さっきの「2番目でもいいから」云々のくだりが本題じゃないの!?
怖い!感覚が違う!怖い!
私がおかしいのか!?


目をパチクリと瞬かせながらも、どうにか一応


「なんでしょう、本題とは?」


と切り返しておいた。