うっとりとした目で携帯の画面に登録された熊谷課長の番号を見ていたら、課長の「なんてね」という少しくだけた言葉が耳に入ってきて、「へ?」と聞き返した。
「本当は大野さんの連絡先、普通に知りたかったんだ。こんなの口実にしてごめん」
ニッコリ微笑んだ熊谷課長の、それはそれは爽やかな笑顔。
本当にライムミントの香りがするような気さえした。
私の思考は完全に停止状態。
その場に立ち尽くしていた。
「今度2人でご飯でも食べに行こう」
熊谷課長は私の耳元でそう囁くと、男子トイレに入っていった。
「ご、ご、ご……」
ご飯!?
ご飯でも食べに行こう!?
ふ、2人で!?
携帯をきつく握りしめたまま宴会の席に戻った。
ゆ、ゆ、夢じゃない!
今日2回目のつぶやき。
確かに熊谷課長が言ってたもん。
ご飯でも食べに行こうって。
しかも、2人で。
きゃー、きゃー!という悲鳴にも似た声を出すことは出来ず。
私は平然とした態度で席に戻り、ビールをやめてひたすらウィスキーと焼酎を飲みまくった。
隣の席にいた奈々はいつの間にか違う席に移動していて、私の話し相手は入社18年目のベテラン事務員真野さんに変わっていた。
真野さんはすでに中学生と小学生のお子さんが2人いて、旦那様も一度だけ会ったことがあるけれど優しそうな人だった。
真野さんは40代で年相応の見た目なのにすごく若々しくて……人生を謳歌している感じがして好きな人だった。



