「私、本当はフレンチなんて食べなくていいの!」


と、唐突にカメ男に訴えた。


「本当はやっすい居酒屋とか、狭い小料理屋とかがいいの!ガヤガヤしててあったかくて。で、ワインじゃなくてキンキンに冷えたビールの方が好きだし!聞いたことない料理じゃなくて日本語で書かれたおつまみを食べたいの!枝豆とか!焼き鳥とか!天ぷらとか!」

「うん」

「野菜の名前なんて興味無いし!美味しければそれでいいじゃない?ステーキはミディアム派だし!リゾットより焼きおにぎり派だし!」

「うん」

「シャーベットよりもバニラアイスが好きだし……」

「うん」

「お店とかメニューだって相談しながら一緒に食べたい物を選びたいし……」

「うん」

「大人のオンナなんて演じられないし。到底無理な話だし……」

「うん」

「付き合う気も無いのにデートするのとかも理解できないし……」

「うん」

「簡単にホテルだって行かないし……」

「………………うん」


一方的な私の話をカメ男は静かに、ただただ淡々とうなずいて聞いてくれた。


「憧れって、好きとは違うのかな……。一緒にいて疲れるなら、それは好きって言えないよね」


ヤツは私がつぶやいた言葉を、特にこれといった感情を込めることもなくいつものように


「要するに疲れてまでも一緒にいたいと思うかどうかでしょ」


と言った。
そして続けざまに「俺だったら嫌だけどね」ってつけ加えた。