ウサギとカメの物語



べ、弁償!?
とんでもない!


「い、いえっ!大丈夫です!まだ使えますから」


熊谷課長から携帯を取り返して、画面をつけてみると普通に操作は出来た。
画面は確かに割れてしまったけれど、使用するのに問題は無いようだった。


むしろ携帯の画面が割れたことによって、仕事以外で会話をすることができた喜びに浸ってしまった。
ありがとう、神様!


「じゃあ何かあったら弁償するから、連絡先交換しようか」


熊谷課長はそう言って、カジュアルなジャケットの内ポケットから自身の携帯を取り出して私の顔を見下ろした。


「…………え?」


私はただ目を点にして、目の前のたいそうハンサムな顔を見上げるばかりだった。


連絡先交換、って言った?この人。


「連絡先交換しよう」


もう一度、熊谷課長の唇が動いて反復するのが聞こえた。


ゆ、ゆ、夢じゃない!


「れ、連絡先ですね!わわ、分かりました」


熊谷課長の、携帯番号とアドレス。
仕事用じゃなくて、完全にプライベート用の私物の携帯。
私の携帯にしっかりと入力された。