ウサギとカメの物語



付き合うとか、そういうことはしないようにしてる?
……じゃあ私の存在ってなんなんだ?


さっきだって手を繋いで歩いたよね。
むしろ繋いできたのそっちじゃん?
食事だって誘ってくるのはいつだって課長の方だったし、私はどちらかというと受身だったし。


付き合えるのは時間の問題かなーなんて勝手に思ってたんだけど。
違うの?


ごちゃごちゃ色んなことを考えているうちに、手に持っているナイフとフォークが煩わしくなってきた。
くそっ、うまく扱えない!
この細かい野菜とかさ、箸があれば即掴めると思うんだけど。
別にこんなのフォークじゃなくてもいいじゃんか。


「……そ、そうなんですねぇ……」


なんとか作り笑いを返しながらそれっぽい相槌を打っておいた。


ここであからさまに「何言ってるんですか、課長?私と付き合うつもりじゃないんですか?」とか言ったら、全然大人のオンナじゃないもんね。
そういうことは言ってはいけません。
スマートな人にはスマートに。


「うん、このワイン美味しいな。大野さんも飲んでみてよ」


何事も無かったかのようにワインの味を嗜んでいる熊谷課長。
言われた通りワインを口に運んで、


「ほんとだ!すっごく美味しい!」


とか言ってみる。


ワインなんて、正直まったく味とか分かんないんだけど。
私いっつもビールとか焼酎とか日本酒だし。
でも必死に課長に合わせたくて笑顔を作る。