ウサギとカメの物語



うっとり熊谷課長の横顔に見とれていたら、彼は少し照れたように微笑みかけてきた。


「嫌じゃない?」

「と、と、と、とんでもない!!」

「あはは、それなら良かった」


嫌なもんですか!!
どこをどうすれば嫌になるんですか!!
もう私、思い残すことはありません!!
お父さん、お母さん、私を産んでくれてありがとう!!


お花畑いっぱいのおめでたい頭で、熊谷課長に連れられるまま近くのフレンチレストランへ入った。


「大野さんって付き合ってる人いるの?」


テーブルに並べられたよく分からない長~い名前の料理をナイフとフォークでチマチマ食べていたら、そんなことを課長に尋ねられた。
私は思わず手を止めて正面に座る課長の顔を見つめる。


このタイミングでその質問なんだ。
付き合ってる人がいたら男の人と2人きりで食事なんて絶対するわけがない。
それくらい課長にだって分かると思ってたんだけどな。


なんて答えようかな、と少し考えてから


「いないですよ」


と捻りのない返答をしておいた。
そして、念のため同じ質問をしておく。
もちろん答えはひとつしかないよね?って信じながら。


「課長はいるんですか?付き合ってる人……」


熊谷課長は爽やかな笑みを浮かべたまま、ちょっと変な答えを返してきた。


「いないよ。……というより、今は付き合うとか、そういうことはしないようにしてる。仕事も忙しいからね」


………………はい?


私の頭の上に、見事なまでに数え切れないほどのはてなマークが並んだ。