ここで初めて、カメ男は自分から口を開いた。
「美味い。ここの料理」
決して美味しそうにニコニコしながら食べるとかじゃないんだけど、まぁヤツにしては珍しく人間味のあるセリフだったからちょっとビックリした。
何故か私は自分が作ったわけでもないのにえらく嬉しくなっちゃって。
行きつけの居酒屋を褒められるのってなかなか嬉しいもんなんだなぁって。
やや上機嫌で「でしょ?」と笑った。
「もうさ、この年になってくると和食を欲するのよね。イタリアンとかフレンチも美味しいんだけど、最終的に行きつくのは和食っていうか。分かる?」
「うん。分かる」
「ここの日本酒も美味しいんだよ。めちゃくちゃ飲みやすいのがあってさぁ」
「どれ?」
「メニューに載ってるよ。ほら、これこれ」
テーブルの脇に置いていたメニュー表をカメ男に見せながら、ついつい笑顔になってしまった自分に気づいてハッとする。
何笑ってんだ、私。
カメ男相手に。
ヤツは私がすすめた日本酒を早速注文しようとしていて、その際メニュー表をこちらへ向けて尋ねてきた。
「メシ系で美味いのは?」
「えっ……と。……焼飯か釜飯かなぁ。焼飯はチャーシュー入りで、釜飯はタコ入ってるの」
「どっちがいい?」
「釜飯かな~」
迷いながらも答えると、カメ男は日本酒と釜飯をすぐに注文した。
ほほぉ~。これまた意外。
ちゃんと人の意見を聞いてくれるんだ。
はじめから料理をシェアする気で注文してくれるのは有り難いよね。
所々理解しがたい部分はあるけど、須和ってけっこういい奴だったりするのかも。
言葉は足りないけど仕事だって真面目にやってるし、時折助けてくれたりするし。
少しだけ、ほんの少しだけ、本当に本当にほんのちょっぴりだけど、ヤツを見直した。
存在感が無いなんて思っててゴメン、って。



