ウサギとカメの物語



やいのやいの押し問答をしているうちに、たぶん田嶋はすでに駅の周辺にいたのだろう、割と早めに私たちのいる居酒屋「酔いどれ都」にやって来た。


それまで私に向かって「コズ様~、コズ様~」を繰り返していた奈々が、目にも止まらぬ速さでお店の入口まで田嶋を出迎えに行く。


私がやれやれ、と隣の空いているイスに移動して田嶋の分の席を空けていると。
背後から奈々のひそめたような声が聞こえた。


「コズ様。作戦変更」

「はい?」


何を言ってるのよ、と後ろを振り向いたら。
奈々の後方に、田嶋と、そしてカメ男……じゃなくて須和がいた。


なんっっでここにカメ男がついてくるんだよ!
仕事でミスを指摘されて若干顔を合わせづらいのに!


カウンター席は3つしか空いていないし、4人が詰めて座るのは無理。
ということは……。








5分後、私は何故か、あろうことかカメ男と向かい合ってビールを飲むハメになっていた。


カウンターの方を見ると、微妙な距離を保った状態で奈々と田嶋がなにやら笑い合いながらそれはそれは楽しそうにお酒を酌み交わしている。


えぇ、楽しいでしょうよ、あなた達は。
なんてったって、隠れ両想いですからね。
気づいてないのは当人たちだけですからね。


花の金曜日だもの。
楽しくお酒を飲みたかったのよ、私は!
それなのにどうしてカメ男と無言でお酒を飲まなきゃならないのよ!


ガックリ肩を落としながら、新鮮な刺身の盛り合わせを口に運びつつビールを飲む。
チラッとカメ男の様子を伺うと、退屈そうに頬杖をつきながら焼き鳥を食べていた。