ヤツはこんな時でも動きは実にのんびりしていて。
ゆっくりとした足取りで私に近づき、手を差し出してきた。
「鍵」
倉庫の鍵をくれ、って言いたいらしい。
だから言葉が足りないっつーの。
でもそんな文句を言い返す元気も無くなって、大人しく彼に倉庫の鍵を渡した。
渡した瞬間、ヤツが何かをボソボソ言った。
「…………え?」
少し驚いて私が聞き返すと、カメ男は「いや」と首を振った。
「なんでもない。早く仕事に戻って」
「あ、うん……」
とりあえずうなずいて、倉庫のドアへ向かう。
かなり離れたところからヤツがついてくる。
私は後ろを振り返って、ちょっぴり悔しい思いを抱きつつもそこは素直に気持ちを言った。
「色々ありがとう。指摘してくれて。ちょっと目が覚めた」
「……そう」
カメ男の返事はそっけなかった。
でもそんなヤツの細かい応答はあまり気にならなかった。
気になったのは、ヤツがボソッとつぶやいた言葉。
でも、真意を問うことは出来なかった。
聞き間違いかもしれないし。
倉庫を出て、廊下を歩きながらヤツの言葉を頭の中で繰り返す。
なんであんな事言ったんだろう……。
「熊谷課長には気をつけた方がいいよ」と。



