チラッと着飾った女子社員に囲まれている熊谷課長を見てみたら、気のせいかもしれないけれど彼がこっちを見ていたような気がした。
目が合った。
あの、爽やかでライムミントの香りがするような笑顔の彼と。
ビックリして急いで顔をそらした。
額にかいてもいない汗を手元にあったおしぼりで軽く拭いて、もう一度熊谷課長を見てみた。
彼は私のことなど見ていなかった。
ですよね!
そうですよね!
妄想が現実になっちゃった〜なんて一瞬夢見た私がダメダメでした!
奈々のこと言えないな、私も酔ってきたかな。
バーチャル熊谷課長と、夢の中でデートするんだもん。
そんなことを考えながら、日本酒に手を出し始めた酔っ払いの奈々を押しのけてお手洗いに向かった。
トイレに入ってから気づいた。
バッグを席に置いてきてしまったことに。
バッグが無いと化粧直しも出来ないし、なんにも出来ないじゃん。
と、自分の適当さを笑う。
さっさとトイレを済ませて、洗面所の鏡で自分の顔をチェックした。
特に化粧も崩れてもいないし、直したってこの平凡な顔面をどうにか出来るわけでもないし。
半ば諦めて、デニムのお尻のポケットに入れていた携帯を眺めながらトイレを出た。



