待ち合わせをしているフレンチレストランに約束の時間の5分前に着いた私は、緊張する心を落ち着かせながらお店に入った。
お店は熊谷課長が選んでくれた。
正直言って、私はこんなかしこまったレストランに入るのは初めてだったりする。
普段もっぱら居酒屋で飲んだり、カジュアルなイタリアンレストランなどで食事をすることが多いため、高級なレストランに足を踏み入れるだけでも妙にビクビクしてしまう。
熊谷課長はあらかじめ予約を取っておいてくれていたので、入店して名前を伝えるとすぐに奥の席に通してもらえた。
真っ白のテーブルクロスに磨き抜かれたシルバーのカトラリーが並んでいて、グラスもそばに置かれていた。
熊谷課長って、今までにも女性と食事する時はこんな素敵なお店を選んでいたのだろうか。
もはや自分が場違いなんじゃないかと無駄にキョロキョロしてしまうのだった。
ガラス越しに映る私をぼんやり眺めながら、深くて長いため息をつく。
あー、なんて平凡な顔なんだろ。
頑張ってメイクしてもこれが限界だし、かと言ってファッションに力を入れようとも顔が負けてしまうからそれも出来ない。
シンプルな顔にはシンプルな服が一番いいに決まってる。
妄想の世界ではバーチャル熊谷課長と楽しく話したり食事したり、口には出せないあんなことやこんなこともしてたけど。
いざとなるとそうはいかないんだろうなぁ、ということだけは私にでも分かる。
程なくして、ウェイターに連れられて熊谷課長がやって来た。
「待たせてごめんね。仕事がなかなか終わらなくて」
着ていた薄手のコートをウェイターに預けて、すぐさま私の向かい側に座る。
メニュー表を手に取りながら申し訳なさそうに肩をすくめた。
「初っ端から遅刻なんて呆れさせてしまったかな?」
「そそ、そんな訳ないじゃないですかっ!ぜんっぜん待ってませんから!」
呆れるわけないでしょ!
たった5分10分の遅刻で!
むしろ遅刻なんて呼べる時間でもないし!
伝われ!この気持ち伝われ!
と、心の中でとなえる。
私がよっぽど必死な口調だったからか、課長は「それならよかった」と笑っていた。



