ビールを注ぎ終えた私が自分の席に戻ると、同期の奈々が拍手で迎えてきた。
「さすが!コズの立ち回りにはいつも感謝してます!よっ、同期の星!」
「あのねぇ」
私は手酌で瓶ビールを自分のグラスに注ぎながら深くて長いため息をついた。
「だ〜れもお酒を注ぎに行かないから仕方なく私が行ってるの!同期の星とか言わないでよね」
言葉の通り。
社内にいる同期は何人もいるけれど、私以外誰1人として飲み会の時は席から動かない。
テコでも動かないんじゃないかってくらい。
だから必然的に私が上司にビールを注ぎに行く。
よって上司からの私の評価が無駄に上がるという、なんとも切ないシステムなのだ。
「たまには行ってよね、部長のところくらい」
「は〜い、ごめんごめん!でもコズは、ほんとは熊谷課長のところに行きたいんでしょ〜?」
フフフ、とまったり笑顔で言ってくる奈々。
この子、けっこう酔っ払ってると見た。
私は呆れたように彼女に視線を送った。
「いいんだ、見てるだけで……」
私には頭の中のバーチャル熊谷課長がいるもん。
妄想でバーチャル熊谷課長とあんなことやこんなことしてるし、それだけでじゅうぶん心は満たされております。
と、死んでも口には出せないセリフを頭の中で吐いた。



