それからの私は、とにかくカメ男の生態を探るべく彼を目で追った。
今までまったくもって1ミクロンも気にしたことがなかったヤツの仕事ぶりは目を見張るものがあった。
案外フットワークが軽いのだ。
……厳密に言えば、実際の動きはのそのそとしていて遅いんだけど。
仕事をしている姿は無駄が無い。
そして、必要な時にはそ〜っと出てきて手を貸し、必要のない時には存在感を消す。
歩くときはあんなにゆっくりもたつきながら歩くくせに、デスクの上で電卓を使う指先は高速、ついでにパソコンのキーボードの上を滑る指も高速。
電話も後輩たちが3コールの内に出なければ、サクッと受話器を手に取って応対する。
もしかしたら私が気づいてなかっただけで、これまでにもヤツに助けられたりしたことがあったのかもしれない。
あまりにもさりげなくて、あまりにも存在感が薄いから分からなかったけれど。
その可能性は大いに高かった。
それにしても、あのボッサボサの寝ぐせがついたままって感じの微妙な髪型はどうにかならないわけ?
いくら事務所の中だけで仕事をするからって、少しくらいこざっぱりとセットしてきてもいいのに。
あれじゃあ、昨日の朝に見たヤツの寝起きの髪型と一緒じゃないの。
そこで我に返る。
昨日の朝、とか簡単に考えてるけど。
ヤツの寝起きなんてどうでもいい。
しょうもない私の半裸を見られたことは置いておくにしても。問題は熊谷課長への私の密かな恋心がバレてしまったことだ。
誰かに言いふらすってことはしないタイプみたいだけど、課長と話をしているだけでもカメ男に何か勘ぐられるんじゃないかと不安になりそうだ。
時々下がってくるメガネをくいっと指で直しながら、それはそれは地味〜に、コツコツと仕事をこなすカメ男。
須和柊平、侮りがたし。
今後もひっそりとヤツの生態調査……じゃなくて、観察を続けてみようと思った月曜日の午後だった。



