ひとまず、急ぎだっていうから慌てて外線8番の電話に出た。
外山建設の倉持さんのハキハキしててキチッとした言葉遣いは、いつも私の背筋を意味も無くピンと伸ばさせる。
神田くんの言う通り、まぁなかなかの急ぎの用事だった。
エアコンの納期がズレるから、依頼していたうちの会社のトラック搬送の予定も大幅に遅れてしまうというのだ。
新しく設定された日付をメモし、また確認してから折り返すと伝えて電話を切った。
時計を見ると15時を回ったところだった。
まだ須和は事務所に戻ってきていない。
この40分ほどの訳の分からないバタバタで若干の疲労感を感じつつ、私は席を立ってさっきまでカメ男が修理していたプリンターの前へ足を運ぶ。
プリンターは直っていて、誰かが出力したらしい印刷物が通常通りにリズミカルに排出トレイへと流れてきていた。
須和のデスクの上には計算機と書類が何枚か置かれていて、自分の仕事はおそらく中途半端のままなんだろうなという印象を受ける。
定例会議に使う資料を持ってけっこうノロノロとした足取りで事務所から出ていったけれど、間に合ったのだろうか。
微妙に不安になりながら、私は事務所から廊下へと出ようとした。
その瞬間、当人の須和とぶつかった。
ヤツはちょうど事務所へ戻ってきたところらしかった。
「うわっ、びっくりした!」
急に現れたもんだから、驚いて飛び跳ねる。
そんな私の様子をカメ男は表情も何も変えずにただ見下ろしていた。
そうだ!お礼言わないと。
即座に私は彼にペコッと軽く頭を下げた。
「資料、届けてくれてありがとう。本当に助かったよ。ギリギリになっちゃって……」
「……あぁ、うん」
カメ男はコクンとうなずいて、私の横をさっさと通り過ぎて行ってしまった。
そんなもん!?
そんなもんなの、お礼言われたあとの対応って!?
普通なら「どういたしまして」とか「大丈夫だよ」とか、それなりに返事してくれたっていいじゃん?
…………でも待てよ。
相手はあのカメ男なんだから、これが普通なのか。
うぅ〜ん、今まで大して話したこともなかったから、ヤツの受け答えはあまりに言葉足らずで厄介だ。
通訳が必要だぞ。



