「す、須和……。プリンターどこかおかしい?」
ワイシャツ姿の須和の背中に声をかけると、ヤツはこちらをチラリと振り返ってから再びプリンターの方を向き直した。
そして何段か重ねられているサイズ違いの給紙トレイをすべて引っ張り出しながら、
「たぶん紙が詰まってる」
と、それだけ告げるのだった。
うひゃ〜、マジか。
よりによってこんな時に!
最低でもあと20分で全部終わらせないと間に合わないのに〜!
顔面蒼白で呆然としていたら、カメ男はプリンターの方を向いたまま、右手の人差し指をちょいちょいとどこかへ向かって指差した。
……なんだ、これは。
何を言いたいんだ?
訳が分からず「はい?」と聞いてみる。
「すぐ直らないから。違うプリンターから出力した方が早い。こっちキャンセルしといて」
「え?でも……」
首をかしげてヤツの背中を見つめる。
私、こいつに何か言ったっけ?
15時からの定例会議の資料を印刷しているなんて、一言も言っていないはずだけど……。
するとカメ男はゆら〜っと立ち上がり、のそのそ〜っと振り向いて、ボソボソッとつぶやいた。
「会議の資料だろ?こっち待ってると間に合わなくなると思うよ」
おやおや。なんとまぁ。
この何事にも超スローな男は、何気に私のしている仕事を把握しているらしい。
正直かなりビックリした。
とりあえず本当に緊急事態だし、と思ってアドバイスを受け入れることにした。
「分かった、ありがとう」って一応ちゃんと聞こえるように大きめの声でカメ男に言ったつもりだったけれど、ヤツは次の瞬間にはもうプリンターの修理に集中しちゃってて。
お礼なんてまったく聞いてやしなかった。
私は自分のデスクに戻って、パソコンの画面のプリンター設定を変更した。
カメ男に言われた通り、2号機プリンターへの出力をキャンセルして3号機プリンターに変更。再出力のボタンを押す。
事務課用のプリンターは2号機。
いつも須和のデスクの真後ろに置いてある。
もしかしたら、ヤツはプリンターの調子が悪くなるたびにさりげなくあぁやって直してくれていたのかな。
営業課用の3号機プリンターから小気味よい印刷される音が漏れなく聞こえてきて、それは私が作った資料をガンガン出力してくれていることを証明していた。



