ウサギとカメの物語



「━━━でさ、二次会のあと手だけは繋げたんだけどさぁ...、決定的な言葉を言ってくれないわけ。結局私って遊ばれてるのかな〜。それとも草食なだけ?考えてるとキリがないわ!」


私と同じ味噌ラーメンをすすりながら、奈々がカウンター席で文句を言っている。
コクの深い味噌味のスープをひたすら飲んでいたら、「ねぇ、コズ〜」と甘ったるい声で返事を急かしてきた。


「えぇ?あぁ、田嶋のことだよね。いっそのこと奈々から好きって言っちゃえば?」


私の流すような返事が気に食わなかったらしく、奈々はシャキシャキのもやしを口の中で小気味よく鳴らしながら


「それは女のプライドが許さん。告白は男からしてもらわないと」


と彼女なりのこだわりを主張してきた。


奈々は正直言って、かなり美人だと思う。
ロングヘアーをなびかせて、コンサバ系のモノトーンのファッションに身を包んでオシャレにも手を抜かない。
性格も私に似てなんでもズバズバ言うし、話していて嫌味がない。
ポンポン会話も弾んで飽きないし、この子が同期で良かったなっていつも感じていた。


そんな彼女が思いを寄せる相手は、同期の営業課にいる田嶋順。
まさに社内恋愛を地で行く奈々はかれこれ3年ほど田嶋に片想いをして、それとなくアタックし続けているのだ。
ご飯や飲みに誘ったり、休日に2人で出かけたり。
どう考えても田嶋も奈々のことを好いていると思うのだけれど、ヤツはなかなかそれを口にしない。
で、奈々は奈々で今みたいに女のプライドがどうとか言い訳をして、気持ちを口にしない。
そういうわけで2人の気持ちが交わることもなく、3年ずーっと友達のままなのだ。


いい加減どっちか告白しろよ、と頭の中で思うし、いつかの飲み会の時に田嶋にけしかけたこともある。
でも田嶋は「あいつもハッキリ好きって言ってくるわけでもないし」と妙に告白を避けている。


田嶋に関しては顔面レベルは中の上って感じで、身長は聞いたことはないけれどおそらく170センチ以上はある。
見た目は平均値以上でまぁまぁとして、なによりも彼は中身が素晴らしい。


とにもかくにも優しい!誰にでも優しい!
生まれたての赤ちゃんから、人生の大先輩であるご老人にまで。
頭のてっぺんからつま先まで優しさと爽やかさで満ち溢れているもんだから、営業マンとしての成績もなかなかいい。
上にも気に入られていて、おそらく出世コースに乗れるであろう存在。


そんな優しい彼に惹かれた奈々は、優しいが故に草食系男子である田嶋との恋の駆け引きを辛くも3年も味わい続けているのだ。