ウサギとカメの物語



その後、お昼休みになってから。
女子トイレの個室の中にて私は携帯を握りしめていた。


『明日の夜なら空いてます』


という、非常に短い文章を作成する。


熊谷課長からのお誘いに乗るため、明日の夜を希望したのだ。
本当なら電話をしたいところだけど、そこまでの勇気は出なくて結局メールに頼る私。
メールなら好きな時に空いている時間を見つけて読むことができるし、問題ないよね?


明日の夜なら、なんて言い方をしたものの実際は今日の夜だって空いている。
てもまさか今日誘われるなんて思ってなかったから、自分の服装に納得がいかなかった。
それならクローゼットの中からお気に入りの女性らしい服を引っ張り出して、それを着て課長とデートしたい。


え、デートでいいんだよね?
2人きりで食事だもんね?
合ってますよね?


メールの送信ボタンが押せなくて、ウンウン悩んでいると奈々のイライラしたような声が個室の外から聞こえてきた。


「ちょっとぉ〜、コズ〜、いつまでこもってんのよ。ラーメン行くんでしょー?」


「あっ、はいはい」


返事した弾みで送信ボタンを押してしまい、心の中で悶絶した。
おおお〜っ、ヤバい、押してしまった!って。
送信するつもりだったけど、でも、心の準備が無いまま押しちゃった。


はぁ、と意味の無いため息をついて、個室から出ると奈々に腕を引っ張られた。


「ほら、行くよ!味噌ラーメン!」


そうだ、味噌ラーメン食べるんだ。
でもなんだか胸がいっぱい。
明日の夜には熊谷課長と向かい合ってお食事できるなんて……夢のようだー……。


浮ついた気持ちのまま、お財布を片手に奈々とラーメン屋にランチしに行くために外出した。