ウサギとカメの物語



「他には?」


と、カメ男が尋ねてくる。


「なんか無いの?岩沼支店で」

「………………何が?」

「なんか無いの?」


なんか、って何?
いつにも増して言葉が足りなすぎてよく分からないんですけど。


訝しげにヤツを見たまま、首をかしげる。


「マカロンは貰ったよ。またおいでね〜って」

「マカロン?」

「お菓子だよ」


この時、カメ男は顔をしかめてハッキリと不満げな顔をした。
そんな顔をするのを初めて見た。


「なにその顔」


ついつい思ったことをそのまま言葉にしてしまった。
すると、ヤツはいったん箸を置いて少し考え込むように口元に手を当てたあと、


「異動願い出すんでしょ?」


と聞いてきたのだ。


「………………異動願い?」


聞き返してから思い出す。
そういえばそのような話を奈々にしたんだっけ。
どんだけ全部筒抜けでカメ男に伝わってるのよ。
あれは冗談のつもりだったのに。


でも、もういいや。
本気って思われたって別に構わない。
だって私、あんたに振られたんだから。