ウサギとカメの物語



ほぼサラリーマンでごった返す「酔いどれ都」の店内に、若者は私とカメ男くらいだった。
あとは大体40代から50代くらいのオジサマ方が、女将さんと話をしたくて来てる感じ。


かろうじて空いていたテーブル席に滑り込み、適当に料理を頼んでビールジョッキで乾杯をした。
ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲んで、ジョッキから口を離すと同時に深いため息が漏れた。


「はぁ〜、美味い!」


私とは正反対に静かに黙々と飲んでいるカメ男。
それを見ていると、自分がいかにオヤジ化しているか実感する。


甘辛醤油味の蓮根つくねをひと口でパクッと食べたカメ男は、口の中からシャキシャキ音をさせながら


「岩沼支店、楽しかったらしいね」


とヘルプの件を話題に出してきた。
きっと奈々にでも聞いたのだろうな。
このまま岩沼支店で働くかもね〜、とか適当なことを言っていそうだ。


「めちゃくちゃ楽しかったよ。いい人だらけで」

「ふーん」

「みんなチヤホヤしてくれるし」

「どんな風に?」

「若い子はいいねぇ〜、って」

「ふーん」


カメ男っていつもそう。
聞くだけ聞いておいて、こっちが答えると大して興味無さそうな返事ばかりするのよね。


その証拠にヤツは私のことなんて一切見ないし、お酒と料理を堪能している。