「クレームか。そうだったのね……」
ほんの少し安心した。
やっぱりヤツは仕事が早い。
いつもの2倍の仕事量を、きちんと時間内に終わらせていたってことにビックリする。
「わざわざこっち来てくれたんだ。ありがとう」
カメ男はそう言ってイスに掛けていたジャケットを着て、その上に黒いコートを羽織るとぐるぐる巻きに黒いマフラーを巻いた。
前にも思ったけど、完全に黒ずくめの男のよう。
事務所にはもう誰も残っていなかったので、私とカメ男は戸締まりなどの確認をして、部屋の暖房を止めて。
そして、事務所をあとにした。
コツコツ、カツカツと2人の靴音が薄暗い廊下に響く。
言葉は特に交わさなかった。
あーあ。
きっと気まずいって思ってるんだろうなぁ。
こういう時に後悔してしまう。
告白したことを。
もういっそのことここから逃げ出してしまいたい衝動に駆られたけれど。
それは出来なかった。
だってそんなことしたら、ますます気まずくなるもんね。
のそのそ歩くヤツに歩調を合わせて、私もゆっくり歩いた。
守衛室にいるナイスミドル田中さんに「お疲れ様でしたぁ〜、良いお年を〜」って声をかけて、会社を出る。
さっきはなんともなかったのに、今は空に雪がチラチラと降っていた。
そういや告白した日も雪がチラついていたんだった。
思い出したくもない情報が引き出されて、妙に悲しくなってくる。
ここで泣いたら元も子も無いから、泣くもんかと口を結んだ。



