約一週間ぶりに来た本社。
社員パスを使って裏口から中に入り、入ってすぐの守衛室にいるナイスミドルの田中さんに声をかけた。
「忘れ物をしたので戻りました〜」ってそれっぽい嘘をついて。
時刻はすでに19時半。
同期会は始まっただろう。
もしかしたらカメ男はもう会社を出たあとかもしれないけど、まだ仕事をしていたなら後ろめたい。
コートを着たまま廊下を走ると、ショートブーツのヒールの音が響いて聞こえた。
事務所には明かりがついていた。
まだ誰かいる。
ドアノブを掴んで勢いよくドアを開けたら、そのドアが誰かにぶつかった。
同時に「いてっ」という声もした。
すぐそばに須和が立っていて、右肩を押さえて痛そうに眉を寄せていた。
どうやら私の開けたドアの一部が、彼の右肩を直撃したらしい。
「ご、ご、ごめん!」
「うん、大丈夫」
思わず謝ると、カメ男はいつものような落ち着いた声で返事をして、机を片付け始めた。
そしてその途中で何かに気づいたらしく顔を上げると、ゆっくりと私の方を振り向いた。
「あれ……?なんでここにいるの?」
何を今さらっ!!
反応が遅すぎるでしょ、いくらなんでも!!
カメ男だから仕方ないんだろうけど!
でも優しい私は、一応ヤツに説明してあげるのだった。
「須和がまだ仕事してるって奈々から聞いたから……。もしかして私の仕事を引き継いだせいなのかな〜って思って。手伝おうかと……」
「あぁ、そういうこと」
やっと納得したのかカメ男はホッとしたように肩を落とすと、途中になっていた机の片付けを再開しながら
「そうじゃないんだ。17時までに事務の仕事は終らせたんだけど。そのあと1件だけお客様からクレームが入ったから、その処理を営業課の涌澤さんとやってただけだよ」
と言った。



