スーツを着ている時は細身の印象だったのに、案外いい体をしている須和のTシャツの胸元をチラ見しながら、私は腕組みをしてヤツの返答を待った。
「……顔」
「はい?」
「顔。鏡で見て」
あなたは単語しか言えないんですか、とイライラしながら、言われた通りにバッグから小さい鏡を出して自分の顔を確認した。
途端に化粧の崩れたオバケが現れた。
「ぎゃああっ!」
自分の顔の不気味さに悲鳴を上げて小さく飛んだら、私の頭上から嫌に落ち着いた須和の声。
「洗面所、勝手に使って」
ハイ。スミマセン。
アリガトウゴザイマス。
すっかり態度が縮こまった私はその後、洗面所を借りて顔を洗い、またリビングに戻って化粧を直した。
私なにやってるんだろ。
虚しくなりながら手持ちの簡単なメイク道具で軽く化粧をする。
ファンデーションの鏡越しに須和を見てみたら、ヤツはのんびりと最新家電の雑誌なんかをペラペラめくりながらベッドの上で読んでいた。
そして不意に「ウサギ」とつぶやく。
「え?なに?」
よく聞こえなくて、テーブルを占領していた私がベッドに腰掛ける彼を振り返った。
「いっつも忙しなく動いてるから、大野ってウサギみたいだ」
「………………褒めてる?けなしてる?」
ジロッと化粧途中の顔で睨んだら、ベッドの上の置物が無表情で首をかしげるのが見えた。
「さぁ」
なんじゃそりゃあああ!!
のらりくらり返事されたら会話にもならん!
チッと舌打ちしてメイクに戻った。



