ウサギとカメの物語



言い訳をしなくては!
とりあえずこの場を取り繕うためにも、「私は断じて熊谷課長のことなんて好きでもなんでもないよ」って言っておいた方がいい!


……あれ?でも待てよ?
変に言い訳なんかしたら、逆に「私は熊谷課長のことが好きなんです」と主張してるようなもの?


え、じゃあなんて言えばいいのだろう。
この簡素な部屋に2人っきりで、目の前でぼんやりしているでくの坊にするべき説明は……。


そこまで考えたところで、須和は寝癖のついた髪の毛をわしゃわしゃと手のひらで何回かかいたあと、ボソッと言った。


「あー……、でもどうでもいい。というか、興味ないから。誰にも言わない」


私は一瞬反応に困った。


なんか、すんごい失礼なこと言ってない?
どうでもいい。興味ない。
ほほぉ〜、そうですかそうですか。
大して話したこともない同期の女の恋愛事情なんて、知ったこっちゃないってそういうことですか。


「それはどうもありがと」


一応お礼は言った。
嫌だけど言ってやった。


…………あいつ、絶対彼女いないな。
むしろモテないタイプ。
私なら絶対無理。断じて無理。
こんな置物みたいなヤツ、なにがなんでも無理。


私は部屋をぐるっと見て、部屋の隅っこに置いてある自分のバッグを見つけて引っつかんだ。


そこから携帯を取り出して、割れた画面を操作して時間を確認する。


朝の9時半。
お腹も空いた。


「頼んでもいないのにひと晩泊めてもらっちゃって、どうもすみませんでした。というわけで帰ります」


露骨な棒読みでそう言って、そそくさとでくの坊の住処から出ていこうとドアノブに手をかけたところで後ろから「大野」と呼ばれた。


なんなんだよ、この後に及んでまだ言いたいことでもあるわけっ?


「なによっ!?」


イラついた返事をしながら振り向くと、ノロノロとこちらへ置物が近づいてくる。