唖然とする私を、カメ男は何か言いたげに見ている。
その視線がやけに痛くて苦しい。
うわーお。
やっぱり聞かれちゃってるかも。
好きな人が社内にいるってバレちゃってるかも。
ヤバいぞヤバいぞ、告白なんてまだする気無いんですけど〜。
眉を寄せてカメ男を睨むように見ていたら、隣で神田くんが素頓狂な声を上げた。
「あ!東山さん!」
「え?あ、ほんとだ。美穂ちゃんだ」
少し先の歩道を美穂ちゃんが1人で歩いている。
今日はキャメルのダウンジャケットを着ている彼女は、会社の時と同じストライプのクロップドパンツを履いていた。
熊谷課長とデートしている時のような可愛らしい服装というよりも、仕事に適した動きやすい服装という雰囲気。
神田くんは私とカメ男に向かって交互に機敏に頭を下げると、
「すみませんっ!途中ですが失礼します!お疲れ様でした!!」
と早口で言い放ち、美穂ちゃんの元へと駆け出していった。
真っすぐに人を好きになって、真っすぐに伝えられる潔さって本当に羨ましかったりする。
私だってそうしたい。
そうしたいけども。
横目でカメ男の様子を伺うと、ヤツはもう私のことは見ていなくて、ただ寒そうにマフラーで口元を覆っていた。
「さ、寒いよねぇ、最近ほんとにさぁ。雪でも降ってくるんじゃないのかね」
ぎこちなくヤツに話しかけて固い動きで歩き出そうとしたら、不意に右手を掴まれた。
意外にもカメ男の手はとても温かくて、冷えきった私の指が猛烈に熱を帯びていく。
なんだなんだと思っていたら、何かを握らされた。



