私が質問をしてから、彼はやけに長い間を置いた。
その間、私たちはじっと見つめ合っていた。
ちっともその交わる視線にはロマンチックなものなんてどこにも無くて、私の目は警察官みたいに被疑者を尋問するような射る目つきだったし、須和の目はボーッとしていて感情が読めなかった。
「何も」
やっと出てきた彼の答えは、そんなシンプルな必要最低限の言葉だった。
「ほ、ほんとに!?信じていいよね!?」
「うん」
コックリうなずく須和の動作を見て、ひとまずホッと安心していたら。
次の瞬間、ヤツは飛び上がるような言葉を吐いたのだ。
「熊谷課長のこと好きなの?」
「………………はいっ!?」
文字通り後ろに後ずさった私は、なんにも考えてなさそうな須和柊平という男に対して一気に警戒心が強まった。
「な、何言ってんの?」
強気な口調で問いただしたものの、須和は顔色ひとつ変えなかった。
「俺を何度か課長と間違えて、そう呼んでたから」
チーーーーーン。
安っぽい鐘の音が耳の奥でこだました気がした。
私ってば本当に甘い。
どこをどう切り取っても目の前にいるでくの坊が熊谷課長になんて成り代わるわけがないのに!
バーチャル熊谷課長との妄想アレコレに加えて、昨日はまさかの本物と連絡先交換しつつのご飯のお誘いがあったから、嬉しくって酔っ払って「熊谷課長ぉぉぉ」なんて言っちゃってたんだ、きっと。
恥ずかしい!
お酒にのまれてそんなことを言っていたなんて、恥ずかしすぎる!



