ウサギとカメの物語



目が合った。


寝癖のついた髪の毛を無造作にボリボリかいて、男が大あくびをする。
奥二重の細い目が私を捉えた。
それなりに整った容姿。
熊谷課長がソース顔なら、この人はしょうゆ顔。
そんなことまで思ってしまった。


でも、誰?
本当に知らない人。
もうここまで来ると怖い。


「大野」


と、男が私の名前を呼んだ。


あれ、この声……聞き覚えがあるような、ないような。


「おはよ」


男はそう言って鈍い動きで起き上がり、盛大に伸びをした。


唖然とその様子を見ていた私は、我に返って体に巻き付けた布団をさらにかき集めて体を隠した。


「だ、だ、誰ですかっ!」


私が投げつけた言葉を聞いて、男は細い目を少しだけ見開いた。


「え、俺だけど」

「はっ?オレオレ詐欺とか目の前でやめてください!ほんとにほんとに、私も今起きたばっかりで状況が掴めてなくて……」


半泣き状態の私をしばらく眺めていた男は、おもむろにサイドテーブルに手を伸ばす。
そこから何かを取って、顔のあたりに運ぶ。
それはよく見るとメガネだった。


スッと顔を上げた男の顔を見て、私は口をあんぐり開けた。


「す、す、す、須和……?」


黒いフレームのメガネをかけた彼は、私の知っている人だった。
いつもメガネだから分らなかった。
メガネが無いとこんな顔なんだ。


同期の、須和柊平。