暗闇の中。

遠くに光が見える。

「必ず迎えに来るから。」

そう言った母親が俺の頭を撫でた。

その顔は真っ暗で見えない。

「お母さん…待って!」

黙ったまま母親が光の方へと歩いて行く。

「ねぇ待ってよ!僕を置いて行かないで!!」

俺の声は聞こえていないのか歩みは止まらない。

泣き叫んで母親を呼ぶけれど、どんどんその背中は小さくなって行く。



「母さんっ!!」

真っ暗なモノトーンの部屋に汗だくの瑛斗は目を覚ました。

「またかよ…。」

広いベットの上で瑛斗は自分を抱きしめ頭を抱えた。

時刻は深夜5時…一杯の水を飲もうと部屋を出た。

リビングに入ると足元のランプが灯る。

カウンターには自分が書いたメモがまだある。

いや…違う!!

瑛斗はメモを強く掴んだ。

《…家に帰ります。服は要りません。色移りしてても着れるので。向日葵》

瑛斗はメモを手の中に丸めると、慌てて女の部屋に向かった。

勢いよく扉を開けた。

そこに女の姿はなく、振り返って見ると女の靴もなくなっていた。

瑛斗は壁に背をつけると、そのまましゃがみ込んだ。

「なんだよ…マジか。俺が求める女は、いつも消えるんだな。」

瑛斗はたまらなくなった。

弱々しく立ち上がるとふらふらと歩き電話を取った。

何度かのコールが鳴って気怠そうな声が聞こえた。

「俺、今すぐ会いたい。」

「う〜ん寝てたんだけど…。」

「今から行くから。」

返事を聞かず電話を切った。

手の中のメモはゴミ箱に捨て、瑛斗は家を出た。



「瑛斗…痛い…。」

瑛斗は乱暴にアキを抱いた。

アキは瑛斗の様子がまた変な事に気付き黙って身を任せた。

たまにこんな時間にやって来ては、こうやって乱暴な行為に及ぶ。

決まっていつも苦しそうな表情を見せる。

「アキ…アキ…。」

瑛斗は何かを求める様に、それを私で埋める様に何度も名前を呼ぶけれど、その理由は教えてはくれない。

そして、その理由を聞こうとは思わない。

聞いたら、この関係は終わる。

聞いて深い関係になるとは思えなかった。

完全に終わりを迎える。

そう思う程私達の関係は脆い。

脆い関係性でも、それでも私は瑛斗と離れたくはない。

都合のいい女でも構わない。

瑛斗がしたい時にされるだけでもいい。

それぐらい私は瑛斗を失いたくない。


瑛斗は私を抱くと、さっさと服を着る。

「今日も撮影?」

「あぁ。」

「今日も、こんな時間に来たのにもう帰るの?」

「うん…。7時にはマネージャーが迎えに来るから。」

少しでも探りを入れると瑛斗は壁を即座に作る。

「瑛斗って、どうしていつも…」

「ごめん。もう、行くよ。」

ほらね、高くて分厚い壁。

どんな重機を使っても今のところ壊せそうにない。

ベランダから、こうやって瑛斗の車を何度も見送った。

瑛斗と過ごすのは毎週3、4回たった2時間。

それでも私は幸せだった。