向日葵はキッチンに入ると手を洗い冷蔵庫を開けた。

その直後、テレビの緊急速報の音が鳴った。

瑛斗と向日葵は同時にテレビに顔を向けた。

【女優アキさんが自宅で自殺未遂】

と、同時に電話が鳴った。

瑛斗はテレビから目を離さず電話に出た。

向日葵は力が抜けその場に、しゃがみ込んだ。

「もしもし…?」

「瑛斗か!?」

「杉本さん…。」

「アキさんが自殺した。」

「うん、今テレビで…」

「しっかりしろ!!お前の所にも記者が行くだろうから、一歩も外に出るな。インターホンは切っとけ!家の電話もだ。」

「アキは?」

「手首を切ったらしいが、ごく浅くで自殺と呼べるものでもないらしい…まぁお前への当て付けだろ…。それと、彼女は大丈夫か?」

杉本に言われて瑛斗は初めて向日葵を見た。

向日葵が冷蔵庫前でしゃがみ込んでいた。

「向日葵?」

「大丈夫…私は、大丈夫。」

「杉本さん、大丈夫。俺らは大丈夫だよ。」

「お前アキさんに何か言ったか?」

「えっ?それは…。」

「言ったんだな…。まぁ今さら言った事を消すことは出来ないから仕方がないけど、お前のせいではないからな!お前の事だから、そう思うかもしれんが、本気だとしても、当て付けだとしても、自殺を選んだのはアキさん本人だ。お前のせいでも、彼女にせいでもない。それだけは思っていてくれ。わかったな?」

「うん…。」

瑛斗は力なく返事をした。

「じゃ二人とも、家に居るんだぞ。」

「わかった。」

瑛斗は携帯を切るとテーブルに置いて向日葵のそばに行った。

「大丈夫か?」

瑛斗は向日葵に手を差し出した。

「大丈夫…驚いただけだから。」

向日葵は瑛斗の手を掴むと立ち上がった。

「アキさん…大丈夫なの?」

「杉本さんが言うには俺への当て付けじゃないかって…。手首を切ったらしいんだけど、傷ごく浅くて自殺って程じゃないらしい。」

「当て付けでそんな事!?」

「……。俺も向日葵も家から出るなって。また電話ある思う。」

「瑛斗さんは大丈夫なの?」

思考と感情が伴ってくれない。

「大丈夫…。」

そう言ったけど、大丈夫なんかじゃない。

アキは自分にも愛する人が居ると言った。

じゃねって明るく言っていた。

アキが当て付けでそんなことするようには、到底思えない。

そんな女じゃないのに…。

俺に言った言葉は嘘だったって事か…?

今度はメールを知らせる着信音が鳴った。

瑛斗は携帯を開けた。

「向日葵…アキから…。」

「えっ!?」

瑛斗は向日葵にも見える様に、隣に座った。

「いえ、瑛斗さんが見てください。それはアキさんが瑛斗さんに送ったメールですから。」

「わかった。」

【ごめん。自殺未遂って速報出てしまって…自分でもビックリ!!瑛斗も驚いたでしょ?彼女さん大丈夫かなぁ?!自殺なんてしてないんだけどね…。今病院なんだけど、騒ぎになってしまったから、軟禁状態です。怪我したのは本当で、手首は手首でも手の甲の方なの。ちっちゃな棚欲しくて作ってたら怪我したんだけど、パニックになって、一緒に居た彼が救急車呼んじゃって…タオルで手首ぐるぐる巻きにしてたから、自殺未遂って勘違いされたんだと思う…。でも、ちゃんと誤解って各社に通達したから、大丈夫だと思う。ごめんね。迷惑かけて。彼女さんにも謝っててください。】

「向日葵…読んでいいよ。」

瑛斗は向日葵に携帯を渡した。

内心何処までが本当かわからない。

けれど、アキが自分に嘘を吐いた事はない。

それに、嘘を吐くような人でもない。

機械で書かれた文字は、真実味に欠けるけれど、瑛斗はアキの言葉を信じた。

「瑛斗さん…はい。」

向日葵が携帯を差し出した。

「よかったですね。」

「うん。」

瑛斗は安心したのか腰から砕けた。

「瑛斗さん!?」

「大丈夫、大丈夫!ちょっと安心しただけ。」

座り込む瑛斗と向日葵の耳にまた、速報の音が聞こえた。

【女優 アキさん結婚】

「はぁ?」

それから数分も経たず緊急特番に切り替わった。

ホテルの大きな会場で緊急記者会見が行われようとしている場面に切り替わった。

テレビの中のキャスターが興奮した様に声を上げた。

またメールの着信音が鳴る。

【ごめん。また驚かせてるかも…彼が結婚しよって言ってくれて、事務所も認めてくれて、混乱してるのを落ち着かせる為にも早く言った方がいいってなって、今から会見することになりました。よかった、彼女さんと見てね!瑛斗も幸せになって!】

その直後に画面の中にアキが現れ席に座った。

アキは急な報告になったことを謝り、今回の騒動の事にも謝った。

そして幸せそうな顔で結婚する事になった事を報告した。

「なので、桐生 瑛斗さんとの報道もデマです。お互い迷惑をかけられたので、此処までにしてください。」

と、言った。

「先越されたな…。」

「幸せそうですね。」

「うん。」

ソファーに座り二人で記者会見を見た。

「近いうち、こんな風に報告できるといいな。」

「本気?」

「今、杉本さんに押しまくれば、どうにかなるかも!?」

「私は別に焦らないです。こうして、瑛斗さんと一緒に入れれば幸せです。」

「うん。そうだな。」

瑛斗の肩にもたれかかって来た向日葵の髪に、瑛斗はキスをした。

向日葵は瑛斗に顔を向け笑って見せた。