だけどよく考えてみると、誰の事も薫ほど本気で好きになった事がなかった。

付き合ってくれと言われれば、よほど嫌いでなければ適当に付き合ったし、志信が本気で好きではない事に気付いた彼女から別れようと言われたら、なんの未練も執着もなく別れた。

そしてまたすぐに新しい彼女ができて同じ事をくりかえした。


薫の事が気になり始めてからは、どんどん他の女の子への興味が薄れていった。

そのうち女の子から付き合ってくれと言われても、その気になれず断るようになった。

たまに、特に好きでもない女の子と、なんとなくその場の雰囲気で一夜を共にするような事はあっても、それが恋に発展するわけでもなく、大概はそれきりだった。


思えば長い間、薫に片想いをしていた。

同期とは言え、滅多に顔を見る事もできなかったのに、どうしてあんなに好きでいられたんだろう?

今年の春、SS部と販売事業部の飲み会で思いきって声を掛けてから仲良くはなれたが、同期以上の関係は期待しないでとハッキリ言われてもあきらめなかった。

すぐそばにいても、どんなに優しくしても、甘い言葉を囁いても、なかなか心を開かず恋愛感情を拒絶する薫の言葉に胸を痛めたりもした。

それでも、薫が好きで好きでどうしようもなかった。

付き合いだしてからも、いつも心は薫への想いでいっぱいで、もっと薫に愛されたいと願っている自分がいる。

薫を好きになるほど、もっと一緒にいたいと欲張りになっていく気がする。

(ああそうか…。こんなに好きになった事がないから不安なんだ…。)