臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)

 
 相沢が突っ込まなかったので、中間距離での攻防になった。

 健太も懸命に反撃するが、位置を変えながら攻撃する相沢に、パンチは殆んど空を切った。

 相沢が体を沈め、そのまま上へ右ストレートを放った。ガードの下がった健太の顔面にクリーンヒットした。

 健太の腰が落ちた。


 梅田はすぐにストップし、リングの外からカウントを数える。

 カウントエイトまで数えた梅田に、健太は「まだやれます」と言ってガードを高く上げた。

 梅田はチラッとタイマーを見た。残り三十秒になっていた。


「相沢はあまり手を出すな。片桐は前後の動きだけじゃなくて、もっと左右に動いて攻撃してみろ」

 梅田の指示でスパーリングが再開された。パンチを出さない相沢に、健太も遠慮がちになり、静かな展開のまま終了のブザーが鳴った。