「はふぅー」
久々に来た、町はずれの銭湯。
壁一面に描かれた白や赤の大きな鯉を眺めながら、顎までお湯につかる。
じわじわと雨に濡れた体が温まっていく。
しかし。
「のばらー」
一吾くん特有の抑揚のない声が響き、安らいだ気持ちがきゅっと縮んだ。
ちょ、何話しかけてきてるんすか!
「のばらーいるー?」
「いるから!」
「さっき買った洗顔かして」
「は?」
男湯との仕切りになっている壁を見上げる。
投げたら届くと思うけど……他の人に当たるかもだし!
お湯から上半身を出し、キョロキョロと左右上下を見る。
近くでお湯につかっているおばあちゃんが、にやにやしながら私を見つめていた。
は、恥ずかしい!
「投げないからね! 石鹸で洗っといて!」
「えー肌かぴかぴになるじゃん」
「後で化粧水貸すから!」
「はーい」
壁越しに話す私たちの声が天井にこだまし、白い湯気の中に混ざっていく。
もう! ゆっくり休ませてくださいよ!

