この町では比較的背の高い、12階建てマンションの7階。



窓際でカーテンと闘っている一吾くんの奥には、夕日のオレンジ色と、逆光になった薄い雲が広がっている。


脱色された髪の毛がその光を吸収しているのか、彼は背景と同化しているように見えて、

いくら伸ばしても手の届かない場所にいるように思えた。



「一吾くん」


「ん?」



名前を呼ぶと、布を片手にした彼は振り返り、私を見つめる。


その視線に捕えられると、私は彼の認識の範囲内にいることができていると実感し、安心した。



「カーテン……たぶんそれ表裏逆」


「…………」



せっかく小さい星がちりばめられた可愛い物を選んだのに、部屋側に向けられているのは真っ黒い裏地だった。



「外に柄を見せるのが最近の流行り……」


「んなわけないから!」



ツッコミを入れると口を突き出しいじけた顔をされる。


ちょっと可愛いかも。



だいたい片付けと設置が終わった頃、


「やべ、集中してたらこんな時間じゃん。俺そろそろ行くわ」


と尚紀くんは言って、慌てた様子で立ち上がった。



「あれ、尚紀くんバイト?」


「ううん。今日はガキの迎え」


「……へ?」



口をぽかんと開けたままでいると、


「尚紀は子持ちだから」と一吾くんが教えてくれた。



――こ、子ども!?