母の目標はお金をためて、自分のお店を開くこと。


そうしたら、いっぱい美味しいご飯を食べられるようになるのだと。



何度も僕はそう言い聞かせられていた。



いつもの母は優しかった。


だけど、時々母という存在ではない、僕を邪魔に思っている生き物だと思える時があった。



小学生になったばかりのある日。


風邪で学校を早退したことがあった。


母と連絡が取れなかったため、先生が車で送ってくれた。



僕の家は、のばらの家から徒歩5分ほどのところにある、マンションの一室。



マンションの前で先生と別れ、

1人でエレベーターに乗り、いつも通り鍵を差し込みドアノブを回す。



しかし、チェーンが掛かっているせいで、5センチほどしか扉は開かなかった。



『……っ!』



僕は恐怖のあまり、ぶるっと体が震えた。



『ーーっ! ーーーーっ!』



開かない扉の奥から聞こえたのは、母のものらしき悲鳴だったからだ。