高速を飛ばしてもらったが、1時間以上はかかっただろう。



すでに暴力は終わっていたらしく、母は洗面台で化粧水をつけていた。


腕や肩に新しいアザをつけて、目を腫らしたまま。



急に帰ってきた僕を見るなり、母は驚いて固まっていた。



僕は構わず、足音とドアの音を派手に鳴らし、母の寝室に入った。



『……え、一吾くん!? 本当に来たの!?』



廊下からの光が、年の割に無駄な肉がない上半身を暗闇に映し出した。



『…………』



『そんな怖い顔しないで……うっ!』



声を震わせながら立ち上がったそいつの腹に、僕は思いっきり足裏を叩きつけた。



ごふっ、と体の奥から咳を出し、目の前の男はがくりと膝を折った。



『今のきっついねー……立ち上がれないかも』


『……クズ野郎』


『一吾……くんは、お母さんのこと本当に好きなんだね……ふぐっ!』



もう一発、腹に拳を入れてやった。抵抗はされなかった。


ガードすらする気力もないのだろうか。



『うるせー』


『……つっ!!』



半分曲げた脚に向かってキックを放つと、とうとう膝から崩れ落ちた。



『母さんの腹の中、てめぇのガキいんだろうが!!』



髪の毛をつかんで顔を上げさせる。


そいつは、苦しそうに『腹にはやってません……』と口にした。