それからの日々は早かった。
昔住んでいたあのマンションはほとんど変わっていなかった。
まわりの住宅街に新しい家やアパートが増えたくらい。
高校はどうしようか。
僕の成績で入れるとこならどこでもよかった。
『あれ? もしかして一吾くんじゃないかー? 男前になったねー!』
部屋を下見してから近くのスーパーを探索すると、どこかで見たことのある中年の男が話しかけてきた。
『えーと……』
『ほら、よく昔遊びに来てたでしょ。のばらの父だよー』
『あ、久しぶりです』
――のばら。
懐かしい響きに、胸が熱くなった。
僕は幼い頃いじめられっ子で、しょっちゅう彼女に助けられた。
孤独な僕を家に呼んでくれた。
僕はその無邪気な優しさに支えられていたのだ。
のばらの父は買い物カゴを片手に、出張から帰ったら晩ご飯なくてさ~、と言って笑った。
僕は、4月から以前のマンションで1人暮らしをすることになった旨を伝えた。
『そうなんだー。1人は大変だろうしまた遊びにおいで。あ、のばらにも伝えとくよ!』
『や、のばらさんには内緒にしてもらっていいですか? その方がなんとなく面白そうですし』
『あはは! それいいかもね。で、高校はどこにするの?』
そう尋ねながら、のばら父は惣菜コーナーを物色し始めた。
時間はまだ20時。
のばらの家は、確か母親が料理上手なはずなのに。
なぜ父親が今、1人で惣菜を買うハメになっているのだろうか。
そのまま軽く雑談をして、のばらの志望校を教えてもらった。
担任にその高校を調べてもらうと、
アルバイトは申請すればOKで、ちょうど僕の成績で行けるレベルだった。
のばらもあんまり成績良くないんだな……。
確かにちょっとバカっぽかったかも。
彼女のことを思い出すと、ほんの少し嫌なことを忘れることができた。

