恐怖を通り越して、もう必死だった。
早くしないと一吾くんも危ない。
ダッシュで階段を下り、もみ合う2人の横を急いですり抜け、廊下の棚に向かう。
あった! 母の荷物をまとめた時にあまった、布テープ!
それを手にして、急いで居間に戻る。
「っ、離せっ!」
マスクの男は渾身の力で一吾くんをふりほどいた。
しかし息つく間もなく、一吾くんのミドルキックが脇腹に入る。
その男はバランスを崩して壁にぶつかり、ごおん、と家全体を揺らした。
一吾くんはすかさず襟首をつかみにかかったが――
うつろな視線のまま、マスク男は手元をキラリと光らせた。
「キャーーー!!」
私は悲鳴をあげていた。
マスク男は手にしたナイフを一吾くんに向けて振り回したのだ。
床に赤い飛沫が飛び、私は目をつぶった。
一吾くんが、死んじゃう!!
しかし、再び2人がもみあう音が激しくなったと思いきや、ドン! と大きな音を立てた後、静かになった。
恐る恐る目を開けると、マスクの男は居間のローテーブルに背中を打ち付けた状態だった。
ぴく、ぴくと痙攣した腕が、だらりと力なく下がっていた。
「のばら! テープ!」
その上に乗っかった一吾くんは、後ろに手を伸ばす。
「はい!」
少し引っ張った状態の布テープを急いで渡した。
男はなおも抵抗しようと体をひねっていた。
その腕をテープでぐるぐる巻きにしているうちに、
パトカーのサイレンが重なって聞こえ、窓からの赤い光に居間が包まれた。
堪忍したのか、その男は動かなくなった。

