一吾くんは、下から手を振っている心愛ちゃんに軽く頭を揺らしたのち、遠くの景色に目を向けていた。
私はポケットからタバコを取り出そうとした彼の手をパシンと叩いた後、
「お父さんかなぁ」と答えた。
お金のことはもちろん、浮気をした母よりも仕事を頑張っている父の方が尊敬できるし、性格も合う。
日ごろあまり一緒にいないから、悪いところが見えてないだけかもしれないけど。
「じゃあお父さんに新しい女できたら、どーする?」
「離婚した後なら、別にいいんじゃない?」
話の方向は見えないけど、一吾くんの心の中に近づいている気がして、私はごくりと唾を飲み込んだ。
「もし、その女がろくでもないクズでも?」
「…………」
さらりと、一吾くんの茶色い髪の毛が風になびく。
私も口に何本か髪の毛が入ったため、それを取り出しながら彼を見た。
「うーん。でも、お父さんが幸せならいいんじゃない?」
「その女がのばらを邪魔扱いしても?」
「……え」
冗談っぽさはなく、真剣そうな口ぶり。
質問の内容に動揺しつつも、ちゃんと想像しなきゃいけないと思った。

