「ほら、もーもーさんだよぉー」
「もーもー!」
木柵の隙間から顔を出した牛にユメナさんと心愛ちゃんがエサをあげていた。
街並みを抜け、山を越えて到着したのはとある牧場。
雲の隙間から太陽が差し込み、風が吹く方向にあたり一面の牧草がそわそわとなびいていた。
達也さんと一吾くんは、野外レストラン手前の喫煙所でタバコを吸っている。
綺麗な空気を汚しちゃだめですよー、と思ったけど、
美味しい空気の中で吸うタバコは格別だぁ~、と達也さんが大声を出していた。
「あの、ありがとうございます! こういうとこ来たの久々で、楽しいです」
もくもくと煙を吐く2人のもとに行き、お礼を言う。
すると、達也さんが「嫁と子どもも喜んでるしこっちこそ良かったよ」と言って笑った。
達也さんのまくった腕には、線状に膨らんだ傷跡が刻まれている。
きっと昔やんちゃしていた方なんだろうな。
アスレチックで遊んでいるユメナさんたちのもとに向かおうとすると、
「一吾ちゃん。あん時の貸し、こんなんでチャラでいーの?」
「ん。十分。のばら楽しそうだし」
「あはははっ! お前変わったなー」
と、達也さんと一吾くんの会話が後ろから聞こえてきた。
一吾くん……本当に私を気分転換させてくれるために、外に連れ出してくれたんだ。
昨日、お母さんの話をしてから、何となく彼の様子が変だと思ったけど、単純に嬉しかった。
でも、達也さんが言っている『あの時の貸し』って何だろう?
昔やんちゃしてた頃に、いろいろあったのかな。
そう思いながら、心愛ちゃんと一緒にアスレチックに上ると、
つるっと足を滑らせて地面にしりもちをついてしまい、ユメナさんに爆笑された。
適当な格好で来て良かった……。

