「ほらほら。おいしいよ?」
そう言って、ピンク色のムースをのせたスプーンを彼の口元に持って行ったが、その表情は崩れない。
「じゃ私、食べちゃうね」と伝えると、
やっと「一口ちょうだい」と唇が動いた。
「いいよ。じゃあ起きてー」
「食べさせて」
「え?」
「口で」
茶色い前髪の隙間からのぞく瞳は、私をまっすぐ見据えている。
「…………」
いつもならこういうセクハラ発言に対して、何言ってんの!? と一喝しているはずなのに。
私の影に包まれた一吾くんは、無表情だけど、何かを試しているように思えて、言葉が詰まってしまった。
口の中では、さっき食べたイチゴの後味が広がっていた。
甘さの中に少しずつ酸っぱさが混ざっていくような、そんな味。
『だって、来てくれるじゃん。絶対』
拒絶してしまうと、彼がどこかに行ってしまうんじゃないかと不安が押し寄せる。
でも……でも……口って! だめでしょ普通に!
少し冷静さを取り戻したと同時に、
「冗談だよ」
と一吾くんは半笑いで言った。
……はぁ、やっぱりからかわれてるだけでしたね。
深くため息をつきながら、残りのムースを1人で平らげた。

